2023/06/10 医療法務
クリニックの法務と個人情報保護法その7:個人情報を取得・利用する際の義務③
みなさんこんにちは。
新緑の芽吹く季節。関東地方は先日梅雨入りしましたね。
・・・皆さま、前回のブログの始まりを覚えていらっしゃるでしょうか?
そう、新年のご挨拶で始まっておりました。なんと、半年もブログをさぼったことになります。大変申し訳ございません。。。
さて、気を取り直して。
前回は、個人情報の目的外利用は原則として違法だけれども、例外的に本人の同意を得た場合または個人情報保護法に定められる例外事由(法定除外事由)がある場合には、適法であることを述べました(詳しくはこちら)。
今回は、6つある法定除外事由(法18条3項各号)のうち、「法令に基づく場合」(同項1号)の例について、説明していきたいと思います(一部、クリニックとは直接関係のないものも含まれておりますが、参考までに列挙します)。
3.法定除外事由
(1)法令に基づく場合(1号)
・法令に具体的な根拠がある場合には、目的外利用により保護される利益が存在することが前提になっているし、個人情報の取扱いも法令に従って合理的になされると考えられることから、本人の同意を得ないでも個人情報を取り扱える例外としました。
・具体例ですが、医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンスでは、後述の別表3(88ページ)の他に、刑事訴訟法第197条2項に基づく照会(いわゆる捜査関係事項照会)及び地方税法第72条の63(個人の事業税に関する調査に係る質問検査権)を挙げていますので(26ページ)、まずはこの2つから解説していきましょう。
・刑事訴訟法第197条第2項に基づく照会(捜査関係事項照会)
ー捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の照会を求めることができます(刑事訴訟法第197条第2項)。司法警察職員(警察官)は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとされ(同法189条2項)、犯罪を捜査する過程で、クリニック等の医療機関に対し犯罪関係者(被疑者、被害者等)の診療録等の照会を求めてくることがあります。ここで、診療禄等は、患者さんである関係者の個人情報です。医療機関が照会に応じる義務について、法令では何の規定もなく(応じないことによる罰則もありません)、応じるか応じないかは任意、ということになりますが、ガイダンスでは法定除外事由に当たると判断しています。
ーしたがって、医療機関等が、司法警察職員からの照会の求めに対し、患者さんの同意を得ないで、司法警察職員に対し、患者さんの個人情報を提供しても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・個人の事業税に関する調査に係る質問検査権(地方税法第72条の63)
ー二以上の道府県において事務所又は事業所を設けて事業を行う個人に関係道府県において所得を課税標準として事業税を課する場合には、その所得は、総務省令で定めるところにより、主たる事務所又は事業所所在地の道府県知事が関係道府県内に所在する事務所又は事務所について、道府県知事が決定した課税標準とすべき所得の総額を当該事務所又は事業所の従業員の数に案分して定めるとされます(地方税法第72条の54第2項前段、第1項)。また、総務大臣は、特別に必要がある場合には、道府県知事が定めた所得の総額又は案分して定めた所得の変更の指示をすることができます(地方税法第72条の54第7項)。この場合において、総務省の職員で総務大臣が指定する者(総務省指定職員)は、課税標準額の更正又は決定及びその分割の調査のために必要があるときは、①個人の行う事業に対する事業税の納税義務者又は納税義務があると認められる者、②①の者に金銭又は物品を給付する義務があると認められる者、③①及び②の者以外の者で当該事業税の賦課徴収に関し直接関係があると認められる者に質問し、又は①若しくは②の者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、若しくは当該物件(その写しを含む。)の提示若しくは提出を求めることができます(地方税法第72条の63第1項)。ここで、総務省指定職員の「質問」に対する回答及び「物件」には、患者さんの個人情報が含まれる場合があります。納税義務者等の回答義務や物件の提示・提出義務について、法令では何の規定もなく(応じないことによる罰則もありません)、応じるか応じないかは任意、ということになりますが、ガイダンスでは法定除外事由に当たると判断しています。
次に、別表3について解説をしましょう。
〇法令上、医療機関等(医療従事者を含む)が行うべき義務として明記されているもの
・医師が感染症の患者等を診断した場合における都道府県知事等への届出(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条)
ー医師は、①一類感染症~五類感染症の患者、③二類感染症~五類感染症の無症状病原体保有者、③新型インフルエンザ等感染症の患者、及び④新感染症にかかっていると疑われる者を診断したときは、一定の期間内に、その者の氏名、年齢、性別その他の事項を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届なければなりません(同法12条1項)。
ー2023年5月8日から、新型コロナウィルス感染症が新型インフルエンザ等感染症(二類感染症相当)から五類感染症に変更されましたが、変更後においても、医師があらかじめ患者さんの同意を得ないで、新型コロナウィルス感染症と診断した患者さんの氏名、名前、性別などを保健所長に提供しても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
ー「特定生物由来製品」とは、例えば美容外科クリニックで提供されるプラセンタ注射のプラセンタがそうです。注射用のプラセンタが製造の過程で汚染されて患者さんが感染してしまったような場合で、製造元が患者さんに補償をするようなときには、病院、診療所等の管理者が患者さんの同意を得ないで、患者さんの氏名、住所等のを製造元に提供することは、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・医師、薬剤師等の医薬関係者による、医薬品製造販売業者等が行う医薬品等の適正使用のために必要な情報収集への協力(医薬品医療機器等法第68条の2の6第2項)
ー医薬品等の製造販売業者等が安全管理を行うために必要な情報を収集する活動(医薬品安全性監視活動)として、医療情報データベースを活用することが挙げられます。その際の医療データとしては、電子カルテ、DPC、レセプトの他、学会等が主体となって、特定の疾患や疾患群の治療における医薬品等の使用を含む医療データ(いわゆる疾患登録レジストリ)が考えられます。しかし、「疾患登録レジストリ」の中には、発現頻度が極めて低い副作用等の発現や、個々の患者の詳細な症例経過など、個人を識別できる「個人情報」が含まれる可能性があるため、これを製造販売業者等に提供することが、個人情報保護法の目的外利用に抵触するのではないかと懸念されていました。そこで、こうした懸念なく「疾患登録レジストリ」を医薬品等の安全管理に活用することを可能にするため、薬局、病院や診療所等の開設者、医師や歯科医師等の医薬関係者、又は医学医術に関する学術団体等は、医薬品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造販売業者等が行う医薬品、医療機器又は再生医療等製品の適正な使用のために必要な情報の収集に協力するよう努めなければならないと定められました(同法68条の2の6第2項)。
ーしたがって、薬局、病院や診療所の開設者、医師や歯科医師等の医療関係者、又は医学医術に関する学術団体等が、患者さんの同意を得ないで、疾患登録レジストリのために必要な情報の収集に協力するよう求めてきた医薬品等の製造販売業者等に対して、患者さんの副作用の発現の有無や、詳細な症例経過等を提供しても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・医師、薬剤師等の医薬関係者が行う厚生労働大臣への医薬品等の副作用・感染症等報告(医薬品医療機器等法第68条の10第2項)
ー薬局、病院や診療所、医師、歯科医師や薬剤師等の医薬関係者は、医薬品等について、副作用や感染症の発生に関する事項を知った場合において、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは、その旨を厚生労働大臣に報告しなければならないとされてます(医薬品・医療機器等安全性情報報告制度。同法68条の10第2項)(※)。
(※)なお、同法第68条の13第3項に基づき、厚生労働大臣が独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に医薬関係者についての副作用等報告に係る情報の整理を行わせることとしたため、平成26年11月25日より、報告窓口はPMDAに変わりました(詳しくはこちら)。
ーしたがって、薬局、病院や診療所、医師、歯科医師や薬剤師等の医薬関係者が、医薬品等について、副作用や感染症の発生に関する事項を知った場合で、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認められるときに、患者さんの同意を得ないで、PMDAに対して副作用等の報告をしても個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・自ら治験を行う者が行う厚生労働大臣への治験対象薬物の副作用・感染症報告(医薬品医療機器等法第80条の2第6項)
ー治験依頼者又は治験実施者は、治験使用薬物等について、当該治験使用薬物等の副作用によるものと疑われる疾病、障害又は死亡の発生、当該治験使用薬物等の使用によるものと疑われる感染症の発生等を知ったときは、その旨を厚生労働大臣に報告しなければならないとされています(医薬品医療機器等法第80条の2第6項)。
ーしたがって、治験依頼者又は治験実施者は、治験使用薬物等について、当該治験使用薬物等の副作用によるものと疑われる疾病等が発生したと知ったときは、患者さんの同意を得ないで、その旨を厚生労働大臣に報告しても個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・処方せん中に疑わしい点があった場合における、薬剤師による医師等への疑義照会(薬剤師法第24条)
ーこの条文は、調剤薬局の薬剤師をイメージすると分かりやすいです。忙しい外来診療において、調剤薬局からの疑義照会は処方ミス防止の最後の砦です。そこで、薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならないと定められています(薬剤師法第24条)。
ーしたがって、薬剤師が、患者さんの同意を得ないで、医師に疑義照会をしても、個人情報保護法違反にはなりません。
ー逆に、医師から薬剤師への回答は、個人情報の利用目的に「薬局と連携すること」が含まれることを、院内に掲示したりホームページに掲載したりするなどして公表していれば、利用目的の範囲内の取扱いとして、個人情報保護法違反にはなりません(「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」の別表2)。
・調剤時における、患者又は現に看護に当たっている者に対する薬剤師による情報提供(薬剤師法第25条の2)
ーこの条文も、調剤薬局の薬剤師をイメージすると分かりやすいです。薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならず(同条1項)、また、調剤した薬剤の適正な使用のため必要があると認める場合には、患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握するとともに、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならなりません(同条2項)。
ー薬剤師が患者さんに情報提供や指導を行うことは、個人情報保護法上、何ら問題ありません。問題は、薬剤師が、施設の看護師や訪問看護師など、「現にその看護の当たっている者」に対して情報提供等を行う場合ですが、本条では、薬剤師はこれらの者に対しても情報提供等を行わなければならないと定められています。
ーしたがって、薬剤師が、患者さんの同意を得ないで、施設の看護師や訪問看護師など現に患者さんの看護に当たっている者に対して情報提供等を行っても、個人情報保護法違反にならない、ということになります。
・医師が麻薬中毒者と診断した場合における都道府県知事への届出(麻薬及び向精神薬取締法第58条の2)
ー医師は、診察の結果受診者が麻薬中毒者であると診断したときは、すみやかに、その者の氏名、住所、年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項をその者の居住地の都道府県知事に届け出なければなりません(麻薬及び向精神薬取締法第58条の2。ここで「麻薬」とは、同法の別表第1に掲げる物をいいます(同法2条1号))。
ー「厚生労働省令で定める事項」とは、麻薬中毒の症状の概要、診断の年月日、及び医師の住所(病院又は診療所で診療に従事している医師については、当該病院又は診療所の名称及び所在地)及び氏名
のことです(麻薬及び向精神薬取締法施行規則48条)。
ーしたがって、医師が、受診者が麻薬中毒者であると診断したときに、受診者の同意を得ないで、都道府県知事に受診者の氏名、住所、性別、麻薬中毒の症状の概要、診断の年月日及び医師の住所を届け出ても、個人情報保護法違反にならない、ということになります。
・保険医療機関及び保険薬局が療養の給付等に関して費用を請求しようとする場合における審査支払機関への診療報酬請求書・明細書等の提出等(健康保険法第76条等)
ー保険医療機関は、療養の給付又は公費負担医療に関し審査支払機関に対し診療報酬請求をしますが(健康保険法76条、療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令1条)、その際の診療報酬請求書又は診療報酬明細書には患者さんの個人情報が含まれています(療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する省令第7条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める様式(平成 20 年厚生労働省告示第 126 号))。例えば、国民健康保険の一般被保険者にかかる請求欄の場合は、療養の給付欄(件数、処方箋受付回数及び点数を70歳・低所得・未就学児・入院入院外の別で区分並びに一部負担金を入院入院外の別で区分)及び食事療養・生活療養欄(件数、回数、金額、標準負担額を入院入院外の別で区分)があり、これらの内容は、患者さんの個人情報に該当します。
ーしたがって、保健医療機関が、患者さんの同意を得ないで、審査支払機関に対して定められた様式による診療報酬請求書又は診療報酬明細書を提出しても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・家庭事情等のため退院が困難であると認められる場合等患者が一定の要件に該当する場合における、保険医療機関による健康保険組合等への通知(保険医療機関及び保険医療養担当規則第10条等)
ー保険医療機関は、患者さんが家庭事情等のため退院が困難であると認められたとき(1号)、闘争、泥酔又は著しい不行跡によって事故を起したと認められたとき(2号)、正当な理由がなくて、療養に関する指揮に従わないとき(3号)、及び詐欺その他不正な行為により、療養の給付を受け、又は受けようとしたとき(4号)には、遅滞なく、意見を付して、その旨を全国健康保険協会又は当該健康保険組合に通知しなければならないと定められています(保険医療機関及び保健医療療養担当規則10条)。1号~4号に該当する事情は、患者さんの個人情報に該当します。
ーしたがって、保健医療機関は、患者さんの同意を得ないで、健康保険協会又は健康保険組合に上記1~4号に該当する事情に意見を付して通知しても、個人情報保護法違反にならない、ということになります。
・診療した患者の疾病等に関して他の医療機関等から保険医に照会があった場合における対応(保険医療機関及び保険医療養担当規則第16条の2等)
ー保険医は、その診療した患者の疾病又は負傷に関し、他の保険医療機関又は保険医から照会があつた場合には、これに適切に対応しなければならなりません(保健医療機関及び保険医療養担当規則16条の2)。ここで、患者さんの疾病又は負傷に関する事情は個人情報に該当します。
ーしたがって、保険医は、患者さんの同意を得ないで、転医先の保健医療機関や保険医からの疾病又は負傷に関する照会に対し回答をしても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります(もっとも、院内掲示ないしホームページで利用目的として公表している限り、医療機関への情報提供は利用目的の範囲内ですので、やはり患者さんの同意は不要と考えます(「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」の別表2))。
・施設入所者の診療に関して、保険医と介護老人保健施設の医師との間の情報提供(老人保健法の規定による医療並びに入院時食事療養費及び特定療養費に係る療養の取扱い及び担当に関する基準第19条の4)
ー医師である保険医は、施設入所者を診療する場合には、当該介護老人保健施設の医師から当該施設入所者の診療状況に関する情報の提供を受けるものとし、その情報により適切な診療を行わなければならず(老人保健法の規定による医療並びに入院時食事療養費及び特定療養費に係る療養の取扱い及び担当に関する基準第19条の4第1項)、また、施設入所者を診療した場合には、当該介護老人保健施設の医師に対し当該施設入所者の療養上必要な情報の提供を行わなければなりません(同条第2項)。ここで、保険医が介護老人保健施設の医師に対して提供するべき「療養上必要な情報」は、個人情報に該当します。
ーしたがって、保険医は、患者さんの同意を得ないで、介護老人保健施設の医師に対し療養上必要な情報を提供しても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります(もっとも、院内掲示ないしホームページで利用目的として公表している限り、介護老人保健施設への情報提供は利用目的の範囲内ですので、やはり患者さんの同意は不要と考えます(「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」の別表2)。なお、介護老人保健施設の医師から保険医への「診療状況に関する情報」の提供も、別表2で利用目的の範囲内の取扱いとなりますので、本人の同意は不要と考えます)。
・患者から訪問看護指示書の交付を求められた場合における、当該患者の選定する訪問看護ステーションへの交付及び訪問看護ステーション等からの相談に応じた指導等(保険医療機関及び保険医療養担当規則第19条の4等)
ー医師である保険医は、患者から訪問看護指示書の交付を求められ、その必要があると認めた場合には、速やかに、当該患者の選定する訪問看護ステーションに交付しなければならず(保険医療機関及び保険医療養担当規則第19条の4第1項)、また、訪問看護指示書に基づき、適切な訪問看護が提供されるよう、訪問看護ステーション及びその従業者からの相談に際しては、当該指定訪問看護を受ける者の療養上必要な事項について適切な注意及び指導を行わなければなりません(同条第2項)。ここで、「療養上必要な事項」には患者さんの個人情報が含まれます。
ーしたがって、保険医は、患者さんの同意を得ないで、訪問看護ステーションやその従業員に対し、療養上必要な事項について情報提供をしても個人情報保護法に違反しない、となります(もっとも、院内掲示ないしホームページで利用目的として公表している限り、訪問看護ステーションへの情報提供は利用目的の範囲内ですので、やはり患者さんの同意は不要と考えます(「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」の別表2)。
・患者が不正行為により療養の給付を受けた場合等における、保険薬局が行う健康保険組合等への通知(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第7条)
ー保険薬局は、患者が正当な理由がなくて、療養に関する指揮に従わないとき(1号)または詐欺その他不正な行為により、療養の給付を受け、又は受けようとしたとき(2号)は、遅滞なく、意見を付して、その旨を全国健康保険協会又は当該健康保険組合に通知しなければならないと定められています(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第7条)。「療養に関する指揮に従わない」ような事情や、「詐欺その他不正な行為により、療養の給付を受け、又は受けようとした」事情には個人情報が含まれる場合があります。
・医師等による都道府県知事への不妊手術又は人工妊娠中絶の手術結果に係る届出(母体保護法第25条)
ー医師又は指定医師(母体保護法14条1項の、人工妊娠中絶にかかる医師会に指定された医師)は、不妊手術又は人工妊娠中絶を行つた場合は、その月中の手術の結果を取りまとめて翌月十日までに、理由を記して、都道府県知事に届け出なければなりません(母体保護法25条)。ここで、「不妊手術又は人工妊娠中絶」の「結果」及び「理由」には、患者さんの個人情報が含まれています。
ーしたがって、医師又は指定医師が、患者さんの同意を得ないで、不妊手術又は人工妊娠中絶の結果を理由を記して都道府県知事に届け出ても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者による児童相談所等への通告(児童虐待の防止等に関する法律第6条)
ー児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならず(児童虐待の防止等に関する法律6条1項)、この規定が医師や薬剤師等、守秘義務を負う者に関する秘密漏示罪(刑法134条)その他の守秘義務に関する法律の規定を妨げるものと解釈してはならない(同条2項)とされます。ここで、「通告」する内容には、被虐待児の個人情報が含まれます。
ーしたがって、医師、薬剤師等、守秘義務を負う者はもちろん、児童虐待を受けたと思われる児童の発見者はすべて、患者さんの同意を得ないで、福祉事務所や児童相談所に患者さんの情報を提供したとしても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・指定入院医療機関の管理者が申立てを行った際の裁判所への資料提供等(心身喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)第25条)
ー検察官が、心神喪失等の状態で対象行為(殺人、放火、強盗、強制性交等、強制わいせつ、傷害)を行い、不起訴になった者または無罪若しくは執行猶予判決の確定があった者(医療観察法2条2項2号の「対象者」)について、地方裁判所に対し入院又は通院処遇決定のための申立て(同法33条1項)をした場合、指定入院医療機関の管理者等は、意見を述べ、及び必要な資料を提出しなければならなりません(同法25条)。ここで、「意見」及び「必要な資料」には、個人情報が含まれます。
ーしたがって、指定入院医療機関の管理者が、対象者の同意を得ないで、地方裁判所に対象者に関する意見を述べ、必要な資料を提出しても、個人情報保護法違反にはらなない、ということになります。
・裁判所より鑑定を命じられた精神保健判定医等による鑑定結果等の情報提供(医療観察法第37条等)
ー裁判所は、対象者に関し、精神障害者であるか否か及び対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要があるか否かについて、当該必要が明らかにないと認める場合を除き、精神保健判定医又はこれと同等以上の学識経験を有すると認める医師に鑑定を命じなければならならず(医療観察法371項)、鑑定を命ぜられた医師は、当該鑑定の結果に、当該対象者の病状に基づき、この法律による入院による医療の必要性に関する意見を付さなければなりません(同法37条3項)。ここで、鑑定医の「意見」には個人情報が含まれます。
・指定入院医療機関の管理者による無断退去者に関する情報の警察署長への提供(医療観察法第99条)
ー医療観察法による入院処遇決定(同法41条1項1号)又は鑑定入院決定(同法61条)により指定入院医療機関に入院している者が無断退去をした場合、当該無断退去者の行方が不明になったときは、当該指定入院医療機関の管理者は、所轄の警察署長に対し、①退去者の住所、氏名、性別及び生年月日、②退去の年月日及び時刻、③症状の概要、④退去者を発見するために参考となるべき人相、服装その他の事項、⑤入院年月日、⑥退去者が行った対象行為の内容、⑦保護者又はこれに準ずる者の住所及び氏名を通知してその所在の調査を求めなければならないとされます。(医療観察法99条3項1~6号)。ここで、①~⑦には、無断退去者の個人情報が含まれます。
ーしたがって、指定入院医療機関の管理者は、無断退去者の同意を得ないで、所轄の警察署長に対し、上記①~④を通知しても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・指定通院医療機関の管理者による保護観察所の長に対する通知等(医療観察法第110条・第111条)
ー指定通院医療機関の管理者は、当該指定通院医療機関に勤務する精神保健指定医による診察の結果、通院処遇決定(同法42条1項2号)又は入院処遇者の退院許可とともに通院処遇決定(同法52条1項2号)を受けた者について、精神障害の類型、過去の病歴、現在及び対象行為を行った当時の病状、治療状況、病状及び治療状況から予測される将来の症状、対象行為の内容、過去の他害行為の有無及び内容並びに当該対象者の性格を考慮し(同法37条2項)、①対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、医療観察法による医療を行う必要があると認めることができなくなったとき(1号)又は②医療観察法による医療を行う必要があると認めるに至ったとき(2号)のいずれかに該当すると認める場合は、直ちに、保護観察所の長に対し、その旨を通知しなければなりません(医療観察法110条1項)。ここで、「通知」には対象者の個人情報が含まれます。
ーしたがって、指定通院医療機関の管理者は、通院処遇決定又は入院処遇者の退院許可決定とともに通院処遇決定を受けた対象者の同意を得ないで、保護観察所長に対し、上記①~②を通知しても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
ーまた、指定通院医療機関の管理者は、通院処遇決定又は入院処遇者の退院許可とともに通院処遇決定を受けた者において、通院義務に違反する事実又は精神保健観察に付された者の義務(速やかにその居住地を管轄する保護観察所の長に当該居住地を届け出ること、一定の住居に居住すること、住居を移転し、又は長期の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察所の長に届け出ること、保護観察所の長から出頭又は面接を求められたときは、これに応ずること。同法107条)の不順守の事実があると認めるときは、速やかに、保護観察所の長に通報しなければなりません(同法111条)。ここで、「通報」には個人情報が含まれます。
ーしたがって、指定通院医療機関の管理者は、通院処遇決定又は入院処遇者の退院許可決定とともに通院処遇決定を受けた者の同意を得ないで、保護観察所長に対し、通報をしても個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・精神科病院の管理者による都道府県知事等への措置入院等に係る定期的病状報告(精神保健福祉法第38条の2)
ー措置入院者又は医療保護入院者を入院させている精神科病院又は指定病院の管理者は、措置入院者においては症状の他、精神科病院の名称及び所在地、患者の住所、氏名、性別及び生年月日、入院年月日及び前回の定期病状報告の年月日、病名及び過去6月間(入院年月日から起算して6月を経過するまでの間は、過去3月間)の病状又は状態像の経過の概要、処遇に関する事項、生活歴及び現病歴、過去六月間の法第四十条の規定による措置の状況、今後の治療方針、診察年月日及び診察した指定医の氏名を(同法38条1項、精神保健福祉法施行規則19条1項)、医療保護入院者においては症状の他、入院年月日及び前回の定期病状報告の年月日、病名及び過去12月間の病状又は状態像の経過の概要、過去12月間の外泊の状況、任意入院(同法20条)が行われる状態にないかどうかの検討、退院に向けた取組の状況、退院後生活環境相談員の氏名、精神科病院の名称及び所在地、患者の住所、氏名、性別及び生年月日、生活歴及び現病歴、今後の治療方針、診察年月日及び診察した指定医の氏名を(同法38条2項、1項、精神保健福祉法施行規則19条2項)、定期に、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に報告しなければならないと定められています。ここで、報告事項は個人情報に該当します。
ーしたがって、精神科病院の管理者は、措置入院等の患者さんの同意を得ないで、都道府県知事等に対して、措置入院等に係る定期病状報告をしても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・指定医療機関による都道府県・市町村への被保護者に係る病状報告(生活保護法第50条、指定医療機関医療担当規程第7条、第10条)
ー厚生労働大臣又は都道府県知事から、生活保護法による医療扶助のための医療を担当させる機関として指定を受けた医療機関(指定医療機関)は、厚生労働大臣の定めるところ(指定医療機関医療担当規程)により、懇切丁寧に被保護者の医療を担当しなければなりません(同法50条1項)。具体的に、①指定医療機関は、その診療中の患者及び保護の実施機関から法による保護につき、必要な証明書又は意見書等の交付を求められたときは、無償でこれを交付しなければなりません(同規程7条1項)。ここで、「証明書又は意見書等」には個人情報が含まれます。また、②指定医療機関が、患者について患者が正当な理由なくして、診療に関する指導に従わないときもしくは患者が詐偽その他不正な手段により診療を受け、又は受けようとしたときに該当する事実のあることを知つた場合には、すみやかに、意見を附して医療券を発給した保護の実施機関に通知しなければなりません(同規程10条)。ここで、不正な手段により診療を受けた等の「事実」及び「意見」には、個人情報が含まれます。
ーしたがって、指定医療機関が、被保護者である患者さんの同意を得ないで、保護の実施機関に対して、上記①~②を通知しても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・病院等の管理者による、原発性のがんについて、当該病院等における初回の診断が行われた場合における、都道府県知事への届出(がん登録等の推進に関する法律第6条)
ー病院又は指定された診療所の管理者は、原発性のがんについて、当該病院等における初回の診断が行われたとき(転移又は再発の段階で当該病院等における初回の診断が行われた場合を含む。)は、厚生労働省令で定める期間内に、その診療の過程で得られた当該原発性のがんに関する届出対象情報(当該がんに罹患した者の氏名、性別、生年月日及び住所、当該病院等の名称その他当該病院等に関し厚生労働省令で定める事項、当該がんの診断日として厚生労働省令で定める日、当該がんの種類に関し厚生労働省令で定める事項、当該がんの進行度に関し厚生労働省令で定める事項、当該がんの発見の経緯に関し厚生労働省令で定める事項、当該病院等が行った当該がんの治療の内容に関し厚生労働省令で定める事項、当該がんに罹患した者の死亡を確認した場合にあっては、その死亡の日、その他厚生労働省令で定める事項)を当該病院等の所在地の都道府県知事に届け出なければなりませんが(癌登録等の推進に関する法律6条)、原発性のがんに関する届出対象情報は、患者さんの個人情報です。
・専門的ながん医療の提供を行う病院その他の地域におけるがん医療の確保について重要な役割を担う病院の開設者及び管理者による、院内がん登録事業における国への情報提供等
(がん登録等の推進に関する法律第44条等)
ー専門的ながん医療の提供を行う病院その他の地域におけるがん医療の確保について重要な役割を担う病院の開設者及び管理者は、厚生労働大臣が定める指針に即して院内がん登録を実施するよう努めるものとされ(がん登録等の推進に関する法律第44条1項)、国は、がん医療の提供を行う病院及び診療所の協力を得てがん診療情報(院内がん登録により得られる情報その他のがんの診療に関する詳細な情報)を収集し、これを分析する体制を整備するために必要な措置を講ずるものとされます(同法45条)。ここで、がん診療情報は院内がん登録をされた患者さんの個人情報です。がん診療情報を提供する側である病院等の開設者及び管理者に関する規定はないことから、病院等によるがん診療情報の提供はあくまで任意、ということでしょうが、ガイダンスでは法定除外事由に当たると判断しています。
ーしたがって、専門的ながん医療の提供を行う病院その他の地域におけるがん医療の確保について重要な役割を担う病院の開設者及び管理者は、院内がん登録をされた患者さんの同意を得ないで、国によるがん診療情報の収集に協力しても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・医療事故が発生した場合の医療事故調査・支援センターへの報告(医療法第6条の10)
ー病院、診療所又は助産所の管理者は、医療事故(当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるもの)が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、当該医療事故の日時、場所及び状況その他厚生労働省令で定める事項(病院等の名称、所在地、管理者の氏名及び連絡先、医療事故に係る医療の提供を受けた者に関する性別、年齢その他の情報、医療事故調査(同法6条の11第1項)の実施計画の概要、当該医療事故に関し管理者が必要と認めた情報。医療法施行規則1条の10の2第3項)を医療事故調査・支援センターに報告しなければならない(医療法6条の10)とされます。医療の提供を受けた患者さんについてはすでに死亡しており、「生存する個人」という個人情報の定義から外れることから個人情報保護法は及びません。もっとも、「報告」には、当該医療事故に係る医療従事者に関する個人情報が含まれます。
ーしたがって、病院等の管理者は、医療事故に係る医療従事者の同意を得ないで、医療事故調査・支援センターに対し、医療事故が発生した場合に当該医療事故に係る上記事項の報告をしても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
・医療事故調査が終了したときの医療事故調査・支援センターへの報告(医療法第6条の11第4項)
ー病院等の管理者は、医療事故調査を終了したときは、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、その結果を医療事故調査・支援センターに報告しなければなりません(医療法6条の11第4項)。そして、厚生労働省令(医療法施行規則1条の10の4第2項)では、報告を行うに当たっては、当該医療事故が発生した日時、場所及び診療科名、病院等の名称、所在地、管理者の氏名及び連絡先、当該医療事故に係る医療を受けた者に関する性別、年齢その他の情報、医療事故調査の項目、手法及び結果を記載し、当該医療事故に係る医療従事者等の識別ができないように加工した報告書を提出しなければならないとされます。ここで、「報告」及び「報告書」には当該医療事故に係る医療従事者に関する個人情報が含まれます(なお、識別ができないように加工しても、他の資料により当該医療従事者の個人識別性が失われない限り、個人情報に該当します)。
ーしたがって、病院等の管理者は、当該医療事故に係る医療従事者の同意を得ないで、医療事故調査・支援センターに対して、医療事故調査に係る結果を報告をしても、個人情報保護法違反にはならない、ということになります。
〇法令上、医療機関等(医療従事者を含む)が任意に行うことができる事項として明記されているもの
・配偶者からの暴力により負傷又は疾病した者を発見した者による配偶者暴力相談支援センター又は警察への通報(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律第6条)
・医療監視員、薬事監視員、都道府県職員等による立入検査等への対応(医療法第25条及び第63条、医薬品医療機器等法第69条、臨床検査技師等に関する法律第20条の5等)