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2023/11/06 医療法務

クリニックの法務と個人情報保護法その18:個人データに関する義務②

みなさん、こんにちは。

前回は、個人データに関する義務について、3つの類型があることを述べました(詳しくはこちら)。

①データ内容の正確性の確保等の関する義務、②安全管理措置に関する義務、③第三者提供に関する義務の3つでしたね。

今回は、上記3つの類型のうち1つ目の義務である、データ内容の正確性の確保等に関する義務について説明したいと思います。

 

2.データ内容の正確性の確保等に関する義務

(1)データ内容の正確性の確保(法22条前段)

個人情報取扱事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つよう努めなければなりません(法22条前段)

・「正確かつ最新の内容」とは、その内容が最も新たな「事実」と合致していることを言い、「評価・判断」の内容それ自体は本条の対象とはならないとされます。

ー「利用目的の達成に必要な範囲」と限定しているのは、本人が不利益を受けるおそれが生じないようにするためです。そのため、利用目的の内容次第では、過去の事実を記録しておくことが必要な場合があり得ます。

ー診療禄のうち、例えば患者さんの住所や電話番号は「事実」ですので正確かつ最新の内容に保つよう努めなければなりません。他方、例えば患者さんの診断・治療のうち「評価」にかかる箇所については本条の対象外となるか、または、診断・治療のうち「事実」にかかる箇所については本人の不利益を受けるおそれが生じないことから、過去の事実を残しておくことが必要となるでしょう。

 

・本条は、「努めなければならない」とあるように、努力義務です。個人情報取扱事業者にとって、常に正確・最新の内容を把握させることは、実態にそぐわず、過剰な負担を強いることにもなるからです。

 

・本条が努力義務であることを受けて本条違反勧告・命令(法148条)の対象にはなりませんが、苦情の申出(法40条)、個人情報保護委員会による報告・立入検査(法146条)及び指導・助言(法147条)の対象となります。保有個人データにも該当する場合は、本人は訂正等の請求をすることができます(法34条)プライバシー侵害又は名誉棄損による民事損害賠償請求の対象にもなり得ます。

 

(2)不要となった個人データの消去(法22条後段)

個人情報取扱事業者は、利用する必要がなくなったときは、個人データを遅滞なく消去するよう努めなければなりません(法22条後段)

・不要となった個人データは更新する価値や必要がなく、わざわざ正確・最新の内容に保つ理由がないばかりか、むしろ不正確な個人データが残されるおそれがあります。また、個人データは利用目的の範囲で利用し得るのであり、利用する必要がなくなったのであれば、これを漫然と放置すべきでもありません。さらに、放置することにより漏えいなどの安全管理に支障が生じるおそれが高まります。このような理由から、本条後段が規定されました。

 

・ただし、医療に関する記録に関しては、保存に関する重要な規定がありましたね。そうです、医師法等で法定された一定期間の保存義務です(下表参照)。上記の通り、診療録等は場合によって、過去の事実を記録しておく必要があります。したがって、一定期間は利用する必要があるから消去してはいけないということになります。

ーなお、一般の会社と同様、医療法人や個人事業であるクリニックにも、経理や経営に関する書類についても法定の保存期間が定められておりますので、確認しておきましょう。

 

・法22条前段と同様、本条後段も努力義務であり、違反しても勧告・命令の対象にはなりませんが、苦情の申出、個人情報保護委員会による勧告・立入検査及び指導・助言の対象となります。保有個人データにも該当する場合は、本人は利用停止等の請求をすることが可能です(法35条5項・6項)プライバシー侵害又は名誉棄損による民事損害賠償請求の対象にもなり得ます。

 

〔医療に関する諸記録の保存義務〕

・保存期間5年

ー診療禄(医師法24条2項、歯科医師法23条2項)

ー助産禄(保健師助産師看護師法42条2項)

ー救命救急処置禄(救命救急士法46条2項)

ーエックス線装置等の測定結果記録(医療法施行規則30条の21)

ー放射線障害が発生するおそれがある場所の測定結果記録(医療法施行規則30条の22)

ー診療用放射線照射装置等の入手・使用・廃棄等に関する帳簿(医療法施行規則30条の23)

ー(保険医による)患者の診療録(保険医療機関及び保険医療養担当規則9条)

ー(臨床研修病院の)帳簿(医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令19条の2)

 

・保存期間3年

ー歯科衛生士業務記録(歯科衛生士施行規則18条)

ー調剤済み処方箋(薬剤師法27条)

ー(薬剤師の)調剤禄(薬剤師法28条)

ー(保険医療機関の)療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録(保険医療機関及び保険医療養担当規則9条)

ー(保険薬局の)患者に対する療養の給付に関する処方箋及び調剤禄(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則6条)

 

・保存期間2年

ー病院、診療所又は歯科技工所で行われた歯科技工に係る指示書(歯科技工士法19条)

ー(病院の)病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、入院患者・外来患者の数を明らかにする帳簿、入院診療計画書(医療法21条、医療法施行規則20条)

ー(地域医療支援病院の)病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、紹介状、退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約、入院診療計画書(’医療法22条、医療法施行規則21条の5)

ー(特定医療支援病院の)病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、紹介状、退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約、入院診療計画書(医療法22条の2、医療法施行記録22条の3)

ーエックス線装置等の使用時間に関する帳簿(医療法施行規則30条の23)

 

 

いかがでしたか。クリニックなどの医療機関において、法22条の正確性・最新性に関する義務や消去義務は、住所・電話番号、保険証番号、年金番号、家族関係等の形式的な個人情報については重要ですが、病状などの実質的な個人情報に関しては、過去の経過がむしろ重要だったりするので、法22条の適用を受けず、特に医療に関する記録については、法定の期間、保存義務を負うことに注意しましょう

 

次回は、個人データに関する義務その2として、安全管理措置に関する義務について述べたいと思います。

お楽しみに!