2023/06/18 医療法務
クリニックの法務と個人情報保護法その8:個人情報を取得・利用する際の義務④
みなさんこんにちは。
前回は、個人情報の目的外利用(原則として違法でしたね)が適法となる法定除外事由のうち「法令に基づく場合」(法18条3項1号)の例について解説しました(詳しくはこちら)。
今回は、2つ目の法定除外事由として「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」(法18条3項2号)について、解説をしたいと思います。
3.法定除外事由
(2)人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき(法18条3項2号)
・「人」は、他人に限らず、本人の場合も含まれます。また、法人その他の団体も含みます。
・「生命、身体又は財産の保護のために必要な場合」といえるためには、「生命、身体又は財産」について具体的な権利利益侵害のおそれと、目的外利用をすることによって「生命、身体又は財産」の保護が図られるべき必要性・相当性が存在することを要します。
・「本人の同意を得ることが困難」な場合には、同意を求めても同意しない場合、同意が物理的に不可能な場合、同意を求めることにより利用目的が本人に知られる等により支障が発生するおそれがある場合、同意手続を取ることにより本人が違法・不適切な行為を行い、若しくは本人の違法行為等を助長するおそれがある場合等があります。
いまいちピンとこないと思いますので、具体例でイメージを掴むことにしましょう。
<具体例>
・意識不明で身元不明の患者について、関係機関へ紹介したり、家族又は関係者等からの安否確認に対して必要な情報提供を行う場合
ー例えば、意識不明で身元不明の患者さんが医療機関に搬送された場合、このままでは医療費の徴収が困難です。そこで、身元不明者として捜索願を届け出るため、警察に連絡をする場合が考えられます(医療機関の財産の保護のために必要がある場合)。
ーまた、救急搬送元の宿屋の主人からの宿泊代滞納の事実と安否確認の問い合わせに対して、本人の特徴を伝える場合等が考えられます(宿屋の主人の財産の保護のために必要がある場合)。
・意識不明の患者の病状や重度の認知症の高齢者の状況を家族等に説明する場合
ー意識不明の患者さんについて、家族等に病状の説明をすることは、治療法の選択の前提となります(本人の生命、身体の保護のために必要がある場合)。
ーまた、重度の認知症の高齢者について家族等に対する説明は、成年後見人等の財産管理制度を利用する前提にもなります(本人の財産の保護のために必要がある場合)。
・大規模災害等で医療機関に非常に多数の傷病者が一時に搬送され、家族等からの問い合わせに迅速に対応するためには、本人の同意を得るための作業を行うことが著しく不合理である場合
ー同意を求めることにより支障が発生するおそれがある場合の例といえます。
いかがでしたでしょうか。「誰」の「生命、身体、又は財産」が侵害されるおそれがあるのか、という観点と、個人情報を提供することによりそれらの権利利益が本当に保護されるのか、という観点から、個人情報を提供するか否かの判断をしていきましょう。
次回は、第3の法定除外事由である、「公衆衛生の向上又は児童の健全な幾瀬の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」について解説をしたいと思います。よろしくお願いします!