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2023/08/03 医療法務

クリニックの法務と個人情報保護法その11:個人情報を取得・利用する際の義務⑦

みなさん、こんにちは。

 

前回は、個人情報の目的外利用ができる例外(法定除外事由)のうち、「国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき」(法18条3項4号)を解説しました(くわしくはこちら)。

今回は、6つある法定除外事由(法18条3項各号)のうち、第5の法定除外事由である、「当該個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、当該個人情報を学術研究の用に供する目的で取り扱う必要があるとき」(法18条3項5号)ついて、説明していきたいと思います。

 

 

3.法定除外事由

(5)「当該個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、当該個人情報を学術研究の用に供する目的で取り扱う必要があるとき(当該個人情報を取り扱う目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害する場合を除く。)」(法18条3項5号)

 

・本人の同意を得ようとしても、連絡先が分からない場合もあり得るし、多数の個人から個別に同意を取得することは多大な労力を要する場合もあり得ます。学術研究目的ならば個人の権利利益が侵害される可能性は一般的に低く、他方で、社会的意義も大きいといえます。そこで、一定の学術研究目的の場合に適用除外規定が設けられました。

 

令和3年改正前の個人情報保護法では、学術研究については、個人情報保護法による規制が包括的に除外されていました(包括的適用除外)。令和3年改正により、学術研究目的であっても、原則として個人情報保護法の規制下に置かれることとなり、適用除外事由として本号が新設されました(個別的適用除外)。

 

「学術研究機関等」とは、大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者をいいます(法17条8項)。

 

・「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者であり(法16条2項)、「個人情報データベース等」の典型は、診療禄等でしたね?(詳しくはこちら)。従業者が事業者の業務用に使用する場合を含みますので、クリニックに勤務する医師はもちろん、大学附属病院に勤務する医師も、「個人情報取扱事業者」に該当します。

 

「個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合」は除外(原則に戻り本人の同意が必要)されます(法18条3項5号かっこ書)。例えば、医学研究における介入研究が行われる場合は、本人に直接重大な影響が及びうるので、本人の同意を得ることが必要です。

 

「当該個人情報を取り扱う目的の一部が学術研究目的である場合」とは、例えば、大学の医局に所属する研究者が、その大学附属病院において医師として診察した患者さんに関する検査結果を、学術研究のために使用する場合のように、診療行為が患者さんの治療だけでなく、学術研究目的も併有しているような場合が挙げられます。

ーもっとも、例えば日本内科学会(学術研究機関等)に所属するクリニックの医師(個人情報取扱事業者)が、診察した症例の成果をまとめて日本内科学会に発表する場合も含まれるかというと、「本号の外延は必ずしも明確とはいえない」と指摘する見解もある通り、微妙です。この場合は、本人の同意を得る原則に戻った方が無難でしょう。

 

 

いかがでしたか。ポイントは、令和3年の改正(現時点で一番新しい改正)により、原則と例外が入れかわり、それまで学術研究目的ならば原則として個人情報保護法の適用が除外されたのが、改正により、学術研究目的であっても原則として個人情報保護法の規制下に置かれることになった、ということです。

 

次回は、第6の法定除外事由である、「学術研究機関等に個人データを提供する場合であって、当該学術研究機関等が当該個人データを学術研究目的で取り扱うとき」について解説をしたいと思います。

お楽しみに!